今回のテーマは「杉と広葉樹」です。 
 裏五頭山塊には「ヨドの森」のようにブナとスギの混交林を見ることができます。このような天然の混交林は珍しくはなく、大佐渡、立山、芦生など日本海側の有名な天然スギ林には、いずれもブナが混交しています。2千年以上の寿命を持つと考えられているスギに比べると、ブナの寿命はせいぜい4百年です。同じように森をつくっているように見えても、両者の歴史はかなり違います。

 古生物学者の研究では、約1〜5万年前の地球全体が寒冷な時期に、新潟の山はシラビソやトウヒの森林で覆われていたと推定されています。この間、スギは伏条更新で細々と命を繋いでいたと考えられています。
 約1万年前に地球が再び温暖化するにともなって、ブナを始めとした落葉広葉樹は急速に回復し、それまで広く覆っていたシラビソやトウヒなどにとって代わると、スギ林にも徐々に入り込んできたのです。1万年というとかなりの時間に感じられますが、2千年生きるスギにとっては、この間わずか5世代分の時間でした。 

 スギは人工林の象徴のようにされていますが、天然スギは古くから新潟の山に自然分布し、地史的な気候変動をくぐり抜けてきたのです。ブナなどの広葉樹は、植物の進化の歴史からすると新参者なのですが、天然スギはこれら広葉樹に押されて、肩身は狭くなるばかりです。

Lesson 6

 裏五頭山塊の混交林は人の影響を強く受けています。広葉樹林からは薪炭材が、天然スギからは良質の建築用材が伐採されました。森林が伐採されるときには、作業のために落葉層がかき乱されます。そのために、近くに母樹となるスギがある場合に、条件が整えばスギの実生が発生します。逆に、母樹となるべきスギが伐採されてしまえば、広葉樹が増えるのみです。したがって、現在私たちが見ている混交林は、本来の自然林の姿では無いのかもしれません。

 これでも一本の天然杉です。雪で主幹が折れ、次の幹が成長しては雪で折れ、結果的に多くの幹からなる樹型になってしまっていますが、もとはと言えば崖崩れや雪による地表のかく乱があってこそ、この地に芽生えることができたのです。

 「ヨドの森」入り口の崖の縁から空に突き出た天然杉です。

「ヨドの森」のシンボルタワーです。
「ヨドの将軍杉」と言いましょうか。
写真は案内して頂いた中ノ沢の
長老・神田幸一さんです。

それでは「ヨドの森」の天然杉をご紹介します。

 実生とは植物が種子から芽を出して成長したものを言います。秋に親植物から散布された種子は、春になると降り積もった落葉の下で芽生えます。ブナのように大きな種子は、重なった落葉を突き破って成長できますが、小さなスギの種子では落葉を突き破ることができないのです。スギの実生が地上に出てくるためには、落葉が無いか、あるいは落葉が除かれることが必要です。落葉が積もらないためには急傾斜であることが、落葉が除かれるためには、何らかの原因で地表が攪乱されなければなりません。「ヨドの森」の崖の縁は、かつての崖崩れで、あるいは降り積もった雪が急斜面を落ちることにより、地表が攪乱され落葉が除かれたことが推定できます。そのような場所に、スギの実生が芽生え、長い年月をかけて今日まで成長したものと思われます。

三階滝沢

ブナ林

天然杉

三階滝沢

ブナ林

天然杉

 「ヨドの森」を横から見ると左の図の様になっています。天然杉は沢筋から10〜20mの崖の縁に生育しているのですが、段丘の中は一面のブナ林です。ここではスギとブナは明らかに異なった場所に分布しています。なぜ、天然杉は崖の縁にのみ生育しているのでしょう?それは「スギの実生」が芽生えることのできる場所と関係があるようです。

Lesson 5

 右の図の様に、「ヨドの森」には三階滝沢に隣接する河岸段丘の縁に沿って樹齢数百年という天然杉が並んでいます。これら天然杉一本一本が「将軍杉」に匹敵する風格を備えています。河岸段丘の内部はブナの林です。

 Lesson 5 のテーマは「スギの実生(みしょう)」です。最初に天然杉の不思議な森を紹介しましょう。裏五頭山塊・三階滝沢の奥ふところにある「ヨドの森」です。

 裏五頭・杉峰と山頂の最低暗部にある「多枝杉」です。これも「天然杉」です。おそらく主幹が雪でやられた後、周囲から多くの光を受け、残された枝がそれぞれに成長した結果だと思われます。

 次に周囲からの光が豊富で枝が成長した事例を二つご紹介します。下の写真は「ヨドの森」の天然杉です。幹から非常に多くの枝が出ています。土地の水分条件が良くないために、主幹の伸びが悪いにもかかわらず、周辺から光が良くあたると、毎年出る枝が良く成長し、このような樹形になったと考えられます。地元中ノ沢の人達はこうした杉を「暴れ杉」と呼んでいます。節だらけ、幹の太さも先に行くほど細くなり材としての価値はないのでしょうが、この姿こそが「杉」本来の姿なのかもしれません。

 この写真も森林公園・展望台の天然杉です。一次枝・二次枝・三次枝とそれぞれの成長の状態がよく分ります。すでに一次枝は幹としての形態に変化してきており、二次枝は真横へと伸びています。周辺からの光が豊富であれば枝も幹に変化するのです。この天然杉も1000年後には「将軍杉」のようになっているかもしれません。

 まず右の写真を見てください。森林公園・展望台の天然杉です。中央の細い幹の枝が、光を求めて、隣接する太い幹を越えて枝を伸ばしている様子がよくわかります。

 今回は「枝の成長」です。スギの幹から節のない柱材が生産される場合には、枝打ちによって必要な高さまで枝は切り落とされます。集約的に管理された人工林では、枝は厄介者となります。しかし、すでにお伝えしたように、天然杉では、雪害などで幹が途中から折れた場合には複数の枝が主幹にとって代わるように成長しますし、雪で地表に押しつけられた枝から新たな幹が立ち上がることもあります。このように、スギの枝は、有機物を生産する葉を展開するための器官であるだけではなく、厳しい自然環境の中で個体を維持させるためには欠かせないものなのです。

Lesson 4